ベルベット・ファントムバレット
電話が鳴り響いた。
綾音は内心うんざりしながら対応した。
「お電話ありがとうございます。ハイパーソニックレボリューションの一ノ瀬と申します」
何なんだこの社名は。いつも思うことだ。
「営業の小早川はただいま外出しております。ええ、ええ、はい。戻り次第折り返しさせます」
電話を切ってから遠い遠いホワイトボードを睨み付けると、営業の小早川は本日直帰になっていた。16時戻りの予定だったはずだが、どうやら変更になったようだ。なぜ、電話に応答している時にホワイトボードを睨み付けておかなかったのか。綾音は少しだけ自分を責めると、引き出しを開けて、常備してあるハッピーターンに手をかけた。
「ハッピーターンのその粉って、本当においしいですよね。MDMA並みの中毒性、ありますよね」
突然背後から話しかけて来たのは、綾音の後輩にあたる真耶だ。綾音は1992年に生まれ、真耶はその3年程後に生まれた。と言う情報が、出元不明ながら綾音の頭の中にある。
「笹川さん、職場で危険ドラッグの名称とか言わなくても…。はは。確かに時事ネタですけど」
「ねー、ほんと。大河撮り終わっちゃってるのに大変ですよね。現場の人たちかわいそう!」
「確かに。同情しちゃいますよね」
「ほんとですよ。一ノ瀬さんも気をつけてくださいね!って、ハッピーターンは合法か。あはは!」
「ふふ!」
その日の仕事は特に大きな波も無く、平穏に終わり、17時を告げるチャイムがいつも通りに鳴った。終業だ。
綾音は真耶の後をつけていた。
いったいどこから自分がMDMAを常用していることを耳にしたのか。単なる時事ネタとして聞き流せば良かったのだろうが、いきなりMDMAと言う名称を言い放ってきたことに強い違和感を感じていた。果たして、真っ先にそれがくるだろうか。
綾音は真耶の家がどこかを知らないため、決着は真耶が何処かへ行きの乗り物に乗るまでにつけねばならない。
しかし、人の多い、どころか人で埋め尽くされる東京の街。綾音にとってはもうどうすることもできない。真耶はどんどん歩みを進めていく。
綾音は意を決した。
掌から、エネルギーを具現化させた銃を生み出し、手に取る。そして綾音に向かって銃口を向けた。これは常人には目にすることは出来ない。
「…悪く思わないでね」
綾音は引き金を弾いた。
エネルギーで出来た銃弾が真耶の頭部へとギュルギュル向かい、そして着弾する。
いや、着弾したはずだった。
銃弾は気づけば、まるで見当違いの方向へと弾き飛ばされていた。
「…へえ、拳銃タイプの具現化能力なんですね。初めて見ました」
真耶はゆっくりと綾音の方向へ振り返った。
「わたしの具現化能力はね…」
真耶の身体から異様なオーラが放たれる。綾音は、戦慄しながらその様を眺めた。
「さようなら」
真耶がそう言い放つと、綾音の身体は凄い勢いで後方へと吹き飛ばされた。多くの人を巻き込みながら、綾音はテナントとして入っていたアパレルショップの中に突っ込んだ。マネキンは壊れ、商品をメチャクチャになり、綾音は棚に激しく叩きつけられた。
「ううっ…。こ、この具現化能力は…」
「初めて見ましたか?そりゃそうですよね。だって、この能力は…」
真耶はクスクスと笑っている。
To be continued...